日本文化評論序説 第10回
七人の十兵衛幕府の隠密であったか 空白の20年
柳生十兵衛は強い。極悪非道の悪人をバッタバッタ切り捨てる。そして 美少女、武家の奥方、未亡人、とにかく美しい女性に慕われる。
山田風太郎「忍法帖シリーズ」の柳生十兵衛は、男の夢想を現実のものとした隻眼(左眼視力を失っている)の快男児だ。 私は道南勤医協に赴任してまもなく、偶然手にした「甲賀忍法帖」の奇想天外、手に汗にぎる展開におどろいて山田風太郎の忍法帖シリーズにどっぷりはまった。
甲賀忍法帖は、一昨年、 仲間由紀恵 オダギリジョー 主演で公開された SHINOBI(しのび)の原作である。次々登場する忍者の忍術は、奇怪でおどろおどろしいものだが、医師でもあった山田風太郎の手にかかるとひとつひとつの忍法に生物学的な解説がなされ、修練によって実現可能な忍法であると読者に思い込ませてしまう。しかも荒唐無稽なストーリーでありながら歴史的事実は動かさない。
風太郎は、最高傑作の「魔界転生」で十兵衛が歴史上の剣豪の中でも最強であることを証明するために、忍法魔界転生を使って、歴史上に名を残した剣豪を蘇らせ十兵衛と対戦させた。父の柳生宗矩とも対戦し、クライマックスは宮本武蔵との対戦だ。
徳川幕府成立時の重鎮、柳生但馬守宗矩は策士で、出世街道を上り詰めた人物であったが、その長男である剣豪十兵衛の実像はさだかではない。
徳川家光の剣道指南役をやめたのが23才。以後20年間は所在不明。 諸国放浪の旅をしていたと言われている。この謎の期間が多くの作家の創作意欲をかきたてるらしい。
昨年、NHKで放映された「十兵衛七番勝負」では、但馬守宗矩の命によって由井正雪の乱を鎮圧する十兵衛を描いた。
表題の文庫本「七人の十兵衛」は、昨年11月に発刊されたが、時代小説評論家の縄田一男氏が十兵衛を取り上げた7人の作家の短編7編を集めたものだ。十兵衛の評価は 各作家によって異なる。
十兵衛の最後は柳生の里の河原で、遺体となって発見された。享年44才。風太郎は、「十兵衛死す」で最強の剣豪十兵衛を倒した人物の謎解きに挑んでいる。
柳生家は剣術新陰流で江戸幕府に君臨したが、柳生の里は伊賀と甲賀に近い。技能交流で裏柳生と呼ばれる忍者集団すなわちゲリラ組織をつちかったとされている。
柳生但馬守宗矩は、大目付として裏柳生を操って徳川政権を盤石なものにしていく役割を担った。十兵衛の空白の20年間は、どうも幕府の隠密として働いていたのではないかと言うのが「七人の十兵衛」の筆者7人の結論のようだ。











